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第76章

  

  せていなかったけど……鉄仮面でもかぶってるのかよ、あい

  つは。感情が外に出ないにもほどがある。

  しかし、自慢話って……それって自慢話なんだよなあ、やっぱり。戦場ヶ原ひたぎ、あんま

  りそういう自分アピールみたいなことをしそうな奴には全然見えないけれど、まあ戦場ヶ原と

  神原じゃ、先輩後輩という以前に、言っても、女の子同士だからなあ。

  やま

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  喋っちゃうのか。

  ちょっと意外な一面。

  「おめでとうと言わせてもらおう」

  「ああ……ありがとう」

  「だが、これで勝ったと思わないで欲しいな」

  「宣戦布告っ!?」

  「愛は惜しみなく奪うもの……その辺から!」

  「その辺からでいいのか!?」

  話が逸れ過ぎている。

  それでも、この話が逸れた分の時間を補ってあまりあるほどの機動力を持ってるんだよ、こ

  いつは……。

  力がある奴って根本的に得だよな。

  好き勝手できるもん。

  「ともあれ、うむ。要するにあの金髪の可愛い子を探せばいいのだな。しかと了解した。阿

  良々木先輩の頼みとあらば私は本気で走らせてもらう。ふふふ、世間広しと言えど、私を本気

  で走らせることができるのは、阿良々木先輩と、戦場ヶ原先輩と、BL小説の発売日だけだ」

  「誤解を怖れずに言わせてもらえれば、そこに並べられたことで、いまいち嬉しくない台詞に

  なってるぞ……!」

  というか嫌だ。

  最後の一つには別枠を設けて欲しい。

  「しかし阿良々木先輩、私はBLならば大抵のジャンルはいける口だが、中には不得手なもの

  もあってな……そういう小説の場合は、本気で走ることはできない」

  「訊いてねえー!」

  しかも。

  本気で走らないだけで、結局は買うらしい。

  「そもそも神原、引退する前、バスケットボールの試合とかでは、お前は本気で走っていたは

  ずだろうが」

  「いや、言わせてもらえるなら存外そうでもなかったぞ。私が本気で走ると体育館の床が抜け

  てしまうからな」

  「お前の身体は戦車か何かか!?」

  「それに、ほら、狭い範囲であんまり速く動き過ぎると残像が生じてしまうだろう? バス

  ケットボールは五人でするスポーツだからな、分身の術は反則なのだ」

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  「この世界のリアリティレベルを大した意味もなく滅茶苦茶にかき乱すな! 怪異だけで十分

  なんだよ、人間の動きに残像なんか生じるか!」

  「まあ人数がどうこう言うより、まずトラベリングを取られてしまうのだけどな」

  「コート内で選手が分身してるってときに審判さんもそんな初心者向けの反則を取っている場

  合じゃねえだろ!?」

  「一人で九人まで分身が可能だ。あと一人分身を作り出すことができれば、一人で試合のイメ

  トレができる」

  「できないできないできない! そんなことができてたまるか! どんな具体的に説明され

  たって僕は騙されないぞ!」

  「しかし、やはり阿良々木先輩の頼みとあらば話は別だ、今日は、久し振りにリミッターを解

  除し、精一杯走らせてもらう」

  「どうだろうな、僕は今、それを止めたい気持ちがないでもないが!」

  どこまで冗談なのかわからない。

  危険極まりない後輩だった。

  弾道ミサイルみたいな奴だ。

  「止めても無駄だ、阿良々木先輩。私は阿良々木先輩の命令を受けたのだ、こんなに嬉しいこ

  とはない。体力尽きるまで走り続けると誓おう」

  「いや、無理はしなくていいんだぞ? 足が速いっつっても、お前、長距離走は苦手みたいな

  ことを言ってたじゃないか」

  「ん? ああ、それはまだキャラが固まっていない最初の段階での設定だからあんまり気にし

  なくてよい」

  「設定とか言うな!」

  「どうしても気になるようだったら、初期設定に戻すのもやぶさかではないが」

  「ゲームのオプション画面みたいなこと言ってんじゃねえよ!」

  まあ。

  神原の言う苦手は、僕が言うところの苦手とは、全然違うもんだから、確かにあんまり配慮

  するほどの点ではないか。

  「ふふふ。しかし、阿良々木先輩の命令を受けた今の私が、それ以前の私と同じ名を名乗って

  いるというのは、どうにも不自然な感はあるな。進化した私は、違う名を名乗るべきだろう。

  そう、私はもう神原駿河ではない――神原Ωだ」

  「恋に落ちてしまいそうだ!」

  「ちなみに海浜公園が進化すると海兵公園になる」

  オメガ

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  「偉くなったら近寄りがたくなっちゃった!」

  「落石注意は隕石注意になったりして」

  「進化し過ぎたー!」

  僕が進化したらどうなるのだろう。

  ちょっと考えてみたくなくもない。

  「じゃあ、神原、忍を見つけたらえっと、お前の場合はどうなんだろうな、左腕のことがある

  し、大丈夫か……いや、しかし、左腕だけじゃやっぱり危険だな、神原、忍を見つけたら、あ

  くまで近寄らずに、僕に連絡をくれ」

  「うん? 抱きしめちゃ駄目なのか?」

  「駄目だ!」

  二重の意味で駄目だ。

  どちらも無事では済まない。

  「あいやしばらく。私を見くびってもらっては困るな、阿良々木先輩。小さな女の子を抱きし

  められるのなら、命を惜しむ私ではない」

  「それは惜しめよ……大体、小さな女の子を抱きしめたからって、それがなんだってんだ」

  「小さな女の子が可愛かったらそれだけで幸せではないか!」

  「怒られた!」

  後輩に怒られた!

  小さな女の子が可愛かったらそれだけで幸せだということを知らなかったという理由で!

  「お前の主義主張はともかくとしてだな……現実的に、忍に対抗できるのは、この世の中で今

  のところ、僕だけだ――忍野も訳ありで、今は動けない。だから」

  「わかった」

  「千石にも協力してもらってるから、途中で出会うことがあったら情報交換しといてくれ。…

  …ああそうだ、神原、僕、千石から、ブルマーとスクール水着、預かってるから」

  「ああ、そうか。洗濯はしていないだろうな?」

  「いや、してるらしいけど」

  「なんてことを!」

  絶叫されてしまった。

  こいつのキャラって……本当にもう。

  「愚かな……洗濯してしまったら何の意味もないではないか……そんな暴挙を許してしまうと

  は、阿良々木先輩らしくもない」

  「神原、お前

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